前回の記事では子どもがどのように外国語を習得するのかを書きました。
今回は成人が外国語を習得する過程について書きます。
わたしがこの記事を書く信頼性について:わたしは日本育ちの日本人で英語中国語ともにビジネスレベルまで習得しています。さらに現役日本語教師であり、英語講師と中国語コーチの経験があります。詳しい経歴はこちら→管理人プロフィール
成人が外国語を習得する過程:語彙/文法
子どもは身の回りの物の名前を片っ端からおぼえていきます。子どもにとっては全てが新鮮で「知る」「分かる」ことが至上の喜びなので片っ端から覚えることは楽しみです。
しかし大人にとっては、すでに母語で知っているその物の名前を外国語で片っ端から覚えていくのはしんどいことです。
中学高校の時には英単語を覚えるのに単語帳や単語カードを作ったりしてひたすら暗記したことが誰しもあると思いますが大人になればそのやり方は正直面倒で苦痛ではありませんか?
忙しい大人が語彙を増やすには、シチュエーション設定で覚えていくのが一番いいと思います。
例えば旅行会話で、「空港で」「売店で」などですね。ドラマのように使う場面を設定し、やり取りするであろう会話に必要な語彙を入れていく。
記憶は感情とセットになった時にもっとも定着します。頭が硬くなってしまっている大人は場面設定をして感情と一緒に覚えると記憶に残りやすいです。
文法は幼児同様2語文からです。
わたしは日本人です。ここは教室です。
中国語も同じです。
まずは名詞の2語文からスタートし動詞を入れて、接続詞を入れた長い文、と進んでいきます。
子どもの場合は文法はいきなり高度になります。
例えば日本語でいうと
「せっかく作ったのに壊したらだめ。」
幼児は親からよく言われるフレーズでもあるので3歳児もこの文を話します。でもこれは文法にするとかなりハイレベルです。
せっかく・つくった・のに・こわし・たら・だめ。
「せっかく」のような副詞は中級レベルですし「つくった」は「つくります」をた形に変換して「のに」は「けど」の残念とか後悔の気持ちを表して「したら」は「します」のた形に変換して「たら」の意味は 仮定と確定があり、「だめ」は「いけません」の口語です。
うんちゃらかんちゃら〜と、かなり説明が必要になります。
もちろんこんな説明で外国人に教えるわけはなく順番に教えていきます。外国人の場合は「です・ます」の丁寧形から勉強し始めて「みんなの日本語」というメジャーな教科書でいうと20課で初めて普通形(友達や家族の会話)が出てきます。
ネイティブの子どもの場合は親を始めとする周囲の大人から言葉を習得しますので自分に向けて使われる「普通形」の文体から覚えます。
なので外国人学習者からすればネイティブの子どもが話している文はかなりレベルが高い、ということになります。
成人が外国語を習得する過程:発音
子どもは聞こえた音を真似して発音を習得します。しかしこれは言語の臨界期をすぎた大人には難しいことです。モノマネが得意な人や絶対音感のある人など特別に耳が研ぎ澄まされている人なら可能かもしれません。
わたしの場合は、割と耳がよくて聞こえた音を真似するのが得意です。例えばカラスの鳴き真似をするとカラスが寄ってきますし羊の鳴き真似を牧場ですると羊たちがコーラスしてくれます( ´∀`)結局動物王国か٩( ‘ω’ )و
だから英語も中国語も、すぐに発音を褒められました。口の形や舌の位置をきちんと確認して意識するようになったのは人に教えるために、です。
台湾に住んでいた時はすっかり台湾訛りになり、中国大陸に住んだら今度は台湾旅行の時にタクシーの運転手に「どこの省の人?」と聞かれた(中国は省ですね)くらい住んでいる地域の言葉にすぐ影響されます。それでも苦手としている音もありました。
一般的には、聞こえた音を真似するのでは成人の場合はなかなかうまく発音できません。それよりまず口の形と舌の位置を図や言葉で説明してもらって理解し、意識して声に出す練習をするのが近道です。
舌先がどこにあるのか、口の形は縦長か横長か喉の奥から声を出すのか、など、成人の場合は理屈で「理解」してから音を真似するのが適した方法になります。
わたしも日本人に教えるために日本人からあたらめて発音のコツを理論で学び、長年苦手としていた音の謎が解けました!
日本語においては、発音指導はさほど時間をとりません。
1文字1文字はっきり発音することや、小さい「つ」は音を出さずに一拍置く、「じ」と「ぢ」は同じ発音である、とかそれくらいの簡単な注意だけです。
日本語は発音が簡単な言語なので中国語に比べると発音指導は少なめですが、それでも一部口の開けた方や舌の位置を示し、その人の母語との違いを指導しています。
成人が外国語を習得する過程:文字
文字に関しては、子どもと同じですね。
日本語の場合は ひらがな/カタカナを一緒に覚えて次に漢字の練習です。
中国人台湾人学習者の場合は漢字の練習はしません。ただ中国や台湾の漢字と日本で使われている漢字が違うもの、微妙に異なるものを注意喚起するだけです。
例えば
黒 黑 変 变 単 单 など。
非漢字圏の国の学習者の場合は漢字の習得は非常に大変です。中国語は言わずもがな、台湾で中国語を勉強し始めた場合は漢字に加えて注音記号を覚えなければならないとなると気が遠くなりますね・・・。
最近はパソコンやスマホの普及で漢字を手書きすることが減りましたので読めても書けない、ということも増えました。
日本人が中国語を学習する場合、中国や台湾の人が日本語を学習する場合、上記のように画数が一本多い少ないなどの小さな違いがあったりするので手書きで練習することをお勧めします。
母国で小学校教師をしていた人が外国人に母国語を教えられる訳ではない。
つまり言いたいことはこれです。
ネイティブの子供への教え方、教える順番と成人に外国語として教える方法は全く違う!ということです。
日本人だからって日本語を教えられる訳ではない。アメリカ人だからって英語を教えられる訳ではない。
「わたしは日本人です。」の「は」と「わたしが日本人です。」の「が」はどういう意味ですか?
どう使い分けますか?と聞かれてすぐに答えられる人は日本語を学問として分解して勉強したことがある人だけです。
英語の「r」と中国語の「r」は舌先の形が少し違うんだよ、ということは発音指導の勉強をしたことがある人しか知りません。
小学校教師をしていた人であっても、日本の国語の教え方と外国人に対する日本語の教え方は使う文法用語から順番から全て違います。
日本の子供は普通形から覚えて丁寧形を覚えますが外国人は逆なのです。
国語教育と第二言語教育は全く別物だということです。
先日お手伝いした中国語教室の先生は対外言語教育のプロではありませんでした。全く初心者の生徒さんに配ったプリントにはニイハオなどの簡単な挨拶文の上にピンインがふってあり
それを先生に続いて真似して読みましょう、ということから授業していましたが、年配の方が多かったクラスではピンインと聞こえてくる音が一致せず、聞こえた音をカタカナで書き取っている方が多くいました。それだと違うなあ、と思うものがたくさんありました。
例えば 你呢?ni(3)ne(軽)?の「ne」(ナ)が「ラ」に聞こえている生徒さんがいて
ニイラ? という訳です。
何度か先生に続いて読んだあといきなりちょっと会話してみましょう!となって2人1組で会話形式にするんですが、ちょっと無理がありました・・・。
生徒さんはほとんど意味も発音も理解が追い付いていない状態でいきなり会話させられて、結局「中国語は難しいね」となってしまいました。
やっぱり、まず声調の説明、母音と子音の発音指導、練習をみっちりやってから、ここに行かないと。
今回はボランティアの教室だったのでまあいいですが
外国語を習う場合はネイティブかノンネイティブかということより「外国人に言葉を教える教育方法」をきちんと習得しているプロの先生かどうか、という点で選びましょう!
先生ではないネイティブは中級以降の会話練習、口慣らし耳慣らしに使うのがお勧めです!
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